自分が持っている宝石に人工的な加工がされているかもしれない、とご存知の方はどれくらいいるのでしょうか。ほとんどの人は宝石に加工がされていることを知らないのではないかと思います。人工的な加工のひとつに「エンハンスメント」という処理方法があります。今回はこのエンハンスメントについて解説していきます。
宝石の加工について
ほとんどの宝石は、人の手が加えられて磨きあげられることにより、その輝きが際立ちます。しかし、加工の方法などによって天然の宝石の良さが損なっている場合があります。
加工の方法によっては価値が下がることがありますが、それを知らずに宝石を購入してしまう消費者がいるのが事実です。また、反対に宝石を加工したとしても天然石と同じ価値がある加工法もあります。
宝石の加工の種類
エンハンスメントとトリートメントそれぞれの意味
宝石は鉱山で掘り出される原石に最適なカットを施して磨くことによって、魅力的な宝石に変身します。その加工法には数種類あり、大まかにエンハンスメント」と「トリートメント」の2種類にわけられます。
加工法は宝石に付いている鑑別機関が発行した鑑別書や鑑定書に記載されているので確認できます。
エンハンスメント
人工的な加工の方法のひとつ、「エンハンスメント」処理とは宝石の持っている美しさを引き出すために行う必要最小限の処理方法をいいます。日本ではエンハンスメント処理された宝石は「天然石」と認識されるため、宝石の価値を落とすことはありません。
代表的な加工処理に、サファイアやルビーの色を美しく引き出すための加熱処理などがあります。
トリートメント
トリートメント処理をされた宝石は、過剰な加工処理のため、天然石としては認められません。トリートメント処理を施された宝石は、その美しい状態を長く維持できないことが多いため、価値が低くなります。翡翠の樹脂含浸処理などが代表的なトリートメント処理の種類です。
エンハンスメントとトリートメントの違い
上述したようにエンハンスメントはその宝石が天然石としての価値を失っていないとみなされますが、トリートメント処理をされた宝石は天然石として認められないという違いがあります。この認識の差がエンハンスメントとトリートメントの違いです。
エンハンスメントの種類
加熱処理
加熱処理とは、サファイアやルビーなどに施される処理方法をいいます。この処理方法の技術が向上したのはここ20年ほどで、その始まりは1970年代のタイ産のルビーが広まったことがきっかけでした。タイ産のルビーには黒っぽいものが多かったため、どうにかしてきれいな色にしようと試みた始まりです。
加熱処理を施すと、黒みや青みを取り除いて宝石の色をきれいに出すことができ、サファイアはきれいな青に、ルビーはきれいな赤い色にすることができます。コランダムの色の元となる成分は、針状の結晶になっています。1600度~1900度の高温炉で熱することで石の成分が溶けて、石の内部全体に広がるため美しい色が出るのです。
現在、出回っている約95%のサファイアやルビーはこの加熱処理が施されています。日本でも宝石の一般的な加工処理方法として広く知られています。
拡散加熱処理
拡散加熱処理という処理方法は、加工する宝石とは違う他の元素を入れて人工的に宝石内に取り込ませるやり方です。この処理方法を施している宝石の代表的なものは、ルビーやサファイアなどがあります。
含浸処理
ワックスを用いた含浸処理
翡翠や珊瑚、ラピスラズリ、ターコイズなどの多孔質宝石は表面がざらついています。宝石の光沢を美しくして、ざらつきをなくすために行うのがワックスによる含浸処理です。一般的に翡翠には多く行われている処理方法です。
オイルによる含浸処理
この処理方法を行う宝石で代表的なものは、エメラルドです。エメラルドはどこで捕れたものであっても、一般的に内包物(インクルージョン)があるとされています。「傷のないエメラルドはない」と言われているほど、インクルージョンが多いエメラルドは、ほとんどのものが採掘時にすでにフラクチャー(割れ)が生じています。
このフラクチャーは、カットしたり研磨するときに広がってしまう可能性があるので、フラクチャーが広がらないように、目立たなくなるようにシダーウッドオイルを染み込ませる含浸処理は昔から行われてきた処理です。
充填処理
宝石の傷や穴を隠すためにガラスなどを充填する処理方法を「充填処理」といいます。代表的なものは、珊瑚やダイヤモンドです。
漂白処理
代表的な漂白処理宝石は真珠です。これは、宝石表面の汚れやしみなどを取り除くための人工処理方法です。
宝石の処理について知識を持っておこう
宝石の処理方法「エンハンスメント」をご紹介してきました。宝石の人工的な処理方法で天然石と変わらないと認識されているエンハンスメントですが、自分が持っている宝石がどのような加工処理をされているかで、その価値が違ってきます。宝石の処理方法にはどんなものがあるのか、それはどんな種類があるのかを知っておくのは知識として大切なことです。