世界5大ジュエラーのひとつ、カルティエ。ジュエラーとは宝石商、宝石職人のことを指しますが、カルティエが名を馳せている製品は宝石だけではありませんよね。そう、時計です。シックで時にアンティークな趣のデザインが多いため、敬遠してしまうカジュアル派の方もいるのではないでしょうか。今回はその認識を確実に変える、カルティエのスポーツウォッチ『パシャ』についてご紹介します。
カルティエ時計の変わり種?『パシャ』とは
シック、エレガント、スマート、大人、上品…カルティエの時計に対する一般的なイメージとは、これらの言葉が多く用いられるものではないでしょうか。ダイヤやプラチナといった宝飾品によって確固たるハイブランドの地位を築いたカルティエですが、今現在作られている時計においてまばゆいほどの華美を誇るモデルはほんの一握りです。
ましてやキュートなんてイメージとは無縁、と思うのも無理のない話。
ところが、これらの前提を揺るがしてしまう時計が存在しました。それこそが『パシャ』。「スポーツウォッチ」の一言ではまったく説明不足となってしまうデザインは、文章での説明を尽くすよりも写真でご覧いただくべきでしょう。
カルティエ時計のイメージを覆すラウンドケースとアラビア文字
フラグシップモデルであるタンクシリーズから端を発したスクエアケース。カルティエの時計といえばこの角形のフォルムが代名詞でした。
しかし1985年にラウンドケースの新型モデルが発表されます。それこそがパシャ。男性にも似合う硬質なデザインが多く見られたカルティエ時計の中で毛色の違うエレガントなデザインはひときわ女性の目を惹き、これまでカルティエの丸型時計において存在していなかった「代表作」の座を獲得するに至ったのです。
特徴的な要素はそれだけではありません。パシャの印象をよりやわらげたのはその文字盤に配置された数字のフォント。他の多くのモデルで採用されているローマ数字ではなく、丸みを帯びたどこか愛嬌のあるアラビア数字は、パシャの個性を語る上で欠かすことのできない要素でしょう。
個性は小さな所にも行き届いています。時計のゼンマイに息を吹き込むリューズは外れたり抜けたりするトラブルに見舞われがちですが、パシャにはリューズプロテクターが装着されています。
小さな部品であるもののケースとチェーンでつながっているため紛失の心配もなく、さらにはデザインの一部として溶け込むという計算された美しさに、パシャが持つ高い完成度を知ることができるでしょう。
生活防水から100m防水まで!由緒正しいスポーツウォッチ『パシャ』の系譜
そんなパシャですが、スポーツウォッチと先述した通り、生活防水を基本として100m防水(装着した状態での潜水が100mまで可能)のモデルまで存在しています。しかしカルティエというブランドにおいては彗星のように忽然と現れた機能ではありませんでした。
カルティエ初の防水時計「タンクエタンシュ」。とある貴族から「プールで泳ぐ際に装着できる腕時計」の製作を依頼され、これを世に送り出したのが1930年代のこと。その後1943年、新たに生み出された防水時計はラウンドケース型でした。これこそがパシャの原型です。
あらゆる角度から異彩を放つパシャですが、その血にはブランドウォッチの歴史が色濃く刻まれているのです。
レディースもメンズも!知っておきたいカルティエの『パシャ』
硬質なカルティエ時計において、エレガントでキュートな異端。冒頭ではパシャについてそんなご紹介をしましたが、だからといって男性やクールな大人の女性には無用のアイテムという認識は早計です。パシャにはテイストが異なる4種類のモデルが存在し、その印象も実にさまざま。
カルティエの新しい顔を見せてくれるだけではなく、あなたがスポーツウォッチへ抱いているイメージをもくつがえすかもしれません。
正統派にして遊び心の友人。グリッドで魅せる2つの顔『パシャ』
スタンダードモデルこそベースデザインを純粋に味わえるもの。それと同時に、オリジナルはパシャ独自のデザインパーツ「グリッド」を存分に楽しめるモデルでもあります。文字盤を覆う格子状のこのマスク、ひと目見れば忘れられない個性の強さだけではなく、取り外し可能なことでひとつの時計の印象を大幅に切り替えて使い分けることができるのです。
まさしくカルティエが持つ高いデザイン性の産物でしょう。
ケース径38mmで回転ベゼルがしつらえられたモデルを特にパシャ・オリジナルと呼び、他にも35mmや42mmのモデル、クロノグラフが配置されたものも登場しています。主に男性用として扱われやすく、スポーティとドレッシーを両立させたデザインと仕様が遊び心を末長く共有してくれることでしょう。
ユニセックスでスマートに。クロノグラフも存在『パシャC』
1995年、パシャウォッチコレクションの10周年を記念して発表されたのがパシャCです。それまでパシャはシルバーやゴールドなどの貴金属をまじえて作られていましたが、パシャCは初のオールステンレスモデル。
これまでのパシャが見せていたスポーティさからうってかわって、優しげな上品さと高級感を醸し出しています。しかしスポーツウォッチのコンセプトから逸脱することはなく、オリジナルと同様にクロノグラフ搭載モデルも製造されています。
ケース径は35mm。女性にとっては大きめの時計ですが、ユニセックスな雰囲気は愛用者の性別を問いません。
力強く、よりアクティブに!メンズ寄りデザイン『パシャ シータイマー』
パシャ、パシャCについで2006年に初めて登場したのがシータイマー。名前が示す通りにより防水機能に重きを置いたモデルです。
100m防水モデルは他のパシャにもいくつか存在しますが、それが標準仕様なのはもちろんのこと、逆回転防止ベゼルやスーパールミノバ(夜光塗料)仕上げの針など、準ダイバーズウォッチと言えるほどにウォータースポーツ・アクティビティ向けの機能が整えられているのが人気の根強さにつながっています。
ケース径が40mm、どのパシャよりも力強さを感じる質実剛健な雰囲気もあってまったく男性向けのようですが、レディースモデルはパシャCよりも小さい33mm。小ぶりだと意外なほど可愛らしい印象になるのが面白いところです。
カルティエ然としたエレガントさ。あくまでドレッシーに『ミスパシャ』
2009年に登場し、今なお愛されているのがミスパシャです。そのケース径は27mmと飛び抜けて小さく、パシャが秘めていたキュートでスマートな印象を惜しみなく発揮しました。
その傾向はデザインにも顕著です。文字盤に白ではなくピンクを採用したモデルが目を惹きますが、その他本体にピンクゴールドを用いたモデル、小さなダイヤを配置したモデルなど、いずれも「ミス」と名乗るに相応しいエレガントな華やかさ。
パシャシリーズと知りながらつい忘れてしまいそうですが、生活防水機能はしっかりと備わっています。他のパシャと異なりクォーツ式のため、ケースが薄いことと維持費が控えめなのも魅力のひとつですね。
番外編:クリスマス限定、150周年記念モデルのレアな『パシャ』
カルティエは毎年クリスマスに限定モデルを発表していますが、その中にはパシャの限定モデルもいくつか存在しています。パシャCではホワイトシェルまたはピンクシェルの装飾的な文字盤が美しいメリディアン、メルヘンテイストな桜の花が文字盤に配置されたウィンターフラワーなどが有名ですね。
また、パシャにはカルティエ150周年記念モデルも製造されています。その生産数は世界限定の1847本。文字盤やベルトの意匠など、どこかアンティークな雰囲気が魅力的な逸品です。
動かない?傷がついた!知っておきたいカルティエの時計のメンテナンス
時計は装飾品でもありますが、何よりも正確性が重要な精密機械です。大切に扱っていても、微小な隙間から埃や汗などの汚れがムーブメント(時計の機構部分)に入り込むことは避けられません。
それはやがて錆や軋み、部品の劣化、しいては精度の低下につながるおそれがありますが、問題なのは汚れそのものよりも長期間清掃を怠ること。定期的にメンテナンスに出すことを心がけましょう。
オーバーホールとは?
「時計 メンテナンス」で検索すると必ずオーバーホールという単語が出てきます。これは時計の分解清掃を指し、専門の業者やブランドのプロフェッショナルのみ持ちうる高度な技術を必要とします。行う頻度は3年から5年に一度が一般的。
ブランドと無関係の時計清掃業者でも依頼は可能ですが、技術力や知識量の点で100%の保証がされない場合もあります。代金にこだわらないなら公式のアフターサービス「コンプリートサービス(¥42,390~)」へ依頼したほうが安心できるでしょう。公式サイトでは5年に一度の施行を推奨しています。
ちなみに、クォーツ式であるミスパシャは電池の交換も必要です。¥5,130と手軽なため、公式の推奨にしたがって3年に一度の交換をしてもらいましょう。このときにケースを開けての各種点検や裏蓋・リューズのパッキン交換も含まれているのは嬉しいですね。
パシャは新品で買えない?中古の購入で気をつけたいこと
ここまで目を通していただき、カルティエ公式サイトへパシャを確認しに行こうとされた方にお伝えしておきたいことがあります。それはパシャの現行モデルが一種類を除いてすでに存在し得ないこと。つまり、ラウンドケースの代表作とまで言われたパシャの多くが生産終了し、廃盤になっているという問題です。
現行モデルはミスパシャのみ
パシャ・ドゥ・カルティエ、唯一健在なモデルはミスパシャです。パシャCの生産終了は2016年頃とごく最近ですが、それ以前の10年以内にパシャ、シータイマーも先立っていました。事実上、パシャの男性向けモデルを新品で手に入れるのはあまり容易ではありません。容易ではありませんが、新古にこだわらなければひとつの利点も発生しています。
カルティエの時計が安く手に入るという発想
かつて高い人気を誇ったパシャですが、廃盤を経てその需要は落ち着いています。「落ちている」ではないのは流行が去っても愛好者は去らない安定した人気があるためです。カルティエ時計の価格といえば上限はさておいて下は30万円程度からのスタート。それに対し、中古のパシャは状態の良いものでおおよそ18万円程度から購入可能です。
パシャのコピー品を回避するためには?
中古品に限らず、非公式のショップでブランド品を購入するのは常にコピー品のリスクと戦わなければならないもの。しかし公式サイトでの販売がないパシャを求めるなら避けて通れない道です。販売店舗に対する信用とは何を足がかりにすれば良いのでしょうか。
候補にすべきなのはチェーン店を複数持つ大型企業です。抱えるものが莫大であればあるほど、顧客からの信用を失うことを恐れるのは当然のこと。そのために腕の良い鑑定士を雇い、本物に紛れ込もうとする偽物へ常日頃から目を光らせています。
また、平行輸入品・中古市場において、偽造品や不製品の流通防止と排除に取り組んでいる「日本流通自主管理協会(AACD)」という団体があります。高額な会員費を毎年払うことで所属可能なこの団体は、所属企業の経営する店舗で購入した商品に対して疑問を抱いた消費者へ、鑑定・交換・返金の対応を保証しています。
AACDのホームページに設けられている会員企業(サイト)の一覧からショップを探すという手段も大いに有用でしょう。
カルティエ初心者も愛好者も。パシャでスマートに時間を楽しもう
時計というのは常に持ち主の時間に寄り添うもの。時勢によって需要や市場価格が変動することはあっても、コンセプトと創意工夫をもって与えられた個性が色褪せることはありません。パシャの完成されたデザインとカルティエの中で放った異彩は無二の個性に他ならず、その強い存在感は流行り廃りの俎上に乗せるものではないのではないでしょうか。
また、パシャはタンクエタンシュから80年ほどの時を経て生まれました。その系譜は途絶えたわけではなく、今はミスパシャでとどまっている血がまた新しいモデルを生み出す可能性は充分に存在しています。改良に改良を重ねて生まれたラウンドケースの防水時計、さらなる次代のパシャと出会える日を期待したいものですね。