ブライドルレザーは天然皮革を比較的安価に購入できることから、初めてチャレンジするのに向いている革です。手軽に長く愛用することができるので、天然皮革の製品に迷ったらブライドルレザーを選ぶとよいでしょう。今回はそのブライドルレザーの基礎知識や手入れ法をご紹介します。
ブライドルレザーとは
イギリスで1000年以上も前から続く歴史ある革で、原料は成長した成牛を使用します。本来のブライドルレザーとは、植物性のタンニン剤を使って皮から革へと鞣し、防腐処理を行います。タンニン剤にはもっとも堅く仕上がるオークの木から取れるタンニンが使用されています。
しかし、最近では価格を抑えるために薬品で防腐処理されたクロム鞣しの革もあるため、革本来の味を楽しまれたい方は製法をチェックしましょう。
ブライドルレザーは革の表面に蜜蝋を混ぜた油分を塗り込むことで、しなやかに皮下繊維を残して耐久に優れ丈夫で柔らかさを保った質感に仕上がります。蝋成分を染み込ませているため、他の革と比べても防水性に優れており、天然皮革に馴染みが少ない方でもとりわけ扱いやすい革なのが特徴です。
使い始めは、革表面にブルームと呼ばれる白い蝋成分が浮き出ます。このブルームも、原皮を革に加工する職人の仕上げによって多く出るものもあれば、あまり浮き出ない革も存在します。
白い蝋成分が浮き出る独特の表情は、他の革には見られない魅力で、ひと目でブライドルレザーと分かるほどの存在感です。白く浮き出るブルームの扱いには、使う方の好みがはっきりと分かれ、ブルームを布で拭き取って使われる方と、ブルームが自然に落ちるのを楽しむ方の2つに分かれます。
ビジネス向けの製品ほどブルームを拭き取りパリッと使われる傾向にあります。好みによって自分なりの革を育てられることもブライドルレザーの魅力です。
ブライドルレザーとは馬の頭にかける革紐のこと
ブライドルは直訳すると手綱を意味し、ブライドルレザーは、乗馬の頭にかける革紐として使われていました。
丈夫な馬具をつくるために誕生した
当時の移動手段は馬が中心で、落馬=命の危険があったため、しなやかで丈夫な革が必要とされていました。ブライドルレザーは落馬の危険性から身を守るために製法された、とても耐久性のある丈夫な革です。
ブライドルレザーは牛、コードバンは馬のお尻
ブライドルレザー=乗馬という連想から、馬の皮を原材料としたものと勘違いされやすいですが、実は生後2年経過した肉厚の成牛を原材料としています。コードバンは馬のお尻の皮を原材料としたもので、1頭のお尻から使える革は限りがあります。1年以上も前から皮革の予約をしないと手に入らないとも言われています。
革全体に塗りこんだ後に1年寝かせる
ブライドルレザーの仕上げは蜜蝋と動物の油分を混ぜたグリースを表面に塗り込みます。塗り込み方はタンナーによって製法の違いはあるものの、ほとんどの場合はアイロンか職人の手で塗り込まれていきます。
ブライドルレザーの特徴と魅力
ブルームや傷もエイジングのひとつ
ブライドルレザーの特徴とも言えるブルーム。表面に浮き出る蝋は、季節によって現れ方に変化がでるのも魅力です。気温の高くなる夏場は蝋も固まりにくく革表面によく馴染みます。その半面、気温の落ち込む冬場にかけて蝋は固まりやすくブルームとして白く浮き出やすいのが特徴です。
ブルームを拭き取ると馴染んだ蝋の光沢が、革の表情に奥深さを与えてくれます。
長く使い続けるブライドルレザーは、時間が経過すると共に自然と擦り傷やひっかき傷が増えるものです。傷はダメージと捉えず、革の歴史だと考え、エイジングの味わい深さを感じましょう。
丈夫でハリの強い質感
ブライドルレザーの革は肉厚で引き締まっていて、蜜蝋で仕上げられた革はハリのある丈夫な質感です。指の爪先で弾くとカツカツと音がします。肉厚な皮革なので、手のひらで握るとグローブを握ったようなギュギュと音が鳴るほどです。
天然皮革ならではの表情
イタリアは四季がはっきりと分かれていて、夏は強く乾燥し、冬は雨が多くなります。イタリアの気候で考えられた革製法なので、乾燥にも強く雨にも強い必要がありました。
蜜蝋と油分を混ぜたグリースを1年かけて革の表面に浸透させることで、革表面がオイルコーティングされている状態にあり、革芯部まで水分が染み込みにくい特徴があります。外で長時間の利用に耐えられるだけのタフさは、繊細でデリケートな革に比べ、天然皮革の魅力や表情を十分に楽しむことができると言えるでしょう。
湿気の安定するイタリアでは、カビの発生も比較的少なく、油分を多く含ませた皮革が一般的です。日本は比較的湿気の多い気候なため、カビの発生しにくいように、オイルをあまり含ませていない革で仕上げられます。製品に使われる革の産地によって、天然皮革の表情も異なるのも魅力です。
ブライドルレザーの手入れ方法
使い始めは乾拭きだけでOK
ブライドルレザーは蜜蝋と油分を表面に染み込ませているため、使い始めや基本的なケアはブラッシングと乾拭きだけで十分です。ブルームの表情を楽しみたい方の場合は、乾拭きすると白い蝋が削れてしまうので、柔らかい布で丁寧に乾拭きしましょう。
乾拭きだけで乾燥してきたらクリームで油分を足す
油分を表面に染み込ませているブライドルレザーですが、使っていくうちに次第に油分も抜けてきます。蝋を染み込ませていることから、同じように蝋を足すイメージを持つ方も居るようですが、これは大きな間違いです。
革にとって乾燥は大敵で、しなやかさを保つためにも保革油での手入れは必須となります。季節や革の状態により異なりますが、基本的には1ヶ月~2ヶ月に1回で十分です。手で触ってカサつく感じがする場合には、これに限らず保革油でケアしましょう。
ブライドルレザーを使う上での注意点
油分の塗りすぎによるカビ
ブライドルレザーは蜜蝋と油分を混ぜたグリースを表面に浸透させてあります。光沢をより出したいからと保革油の塗り過ぎは返ってカビ発生の元となります。特に湿度の高くなりやすい春から夏にかけて使わずに収納していた場合、保革油の塗り過ぎでカビ菌が増殖しやすくなります。
カビが根付いて取れない場合には、革専門のクリーニングに出すことをおすすめします。1度カビが発生すると再発する可能性が高く、ぼかすことは出来ても、完全に取り除くことは困難だと考えましょう。
汗に含まれる水分で水ぶくれ、アンモニアで変色する
汗に含まれる水分を革の繊維が部分的に吸って膨張します。部分的に膨張したまま乾燥することで、抜けた水分の部分がブツブツと水ぶくれのように浮き残ります。これを水ブクや水ぶくれと呼び、汗に含まれるアンモニアは革本来の艶を消す恐れがあります。
水ぶくれの症状が起きた場合はアイロンをあてて修復することも可能ですが、取り扱いが難しいので革専門のクリーニングで修復することを強くおすすめします。
乾燥で銀面割れ
ブライドルレザーは蜜蝋と油分を表面に浸透させている革で、肉厚でしっかりしているため、一般的な革に比べて銀面割れは起こりにくいです。しかし、財布や小物製品の場合、衣類に入れたまま乾燥機で乾燥させてしまうなどのケースもあるようです。洗濯時にはポケット等に残っていないか確認するよう注意しましょう。
雨などの水に弱いから防水スプレーをかける
日本で仕上げられた革を原料としたブライドルレザーの場合、雨などの水分を吸収しやすい革も存在します。オイル感の少ない革の場合には防水スプレーを使いましょう。
ブライドルレザーに防水スプレーを使う場合に注意点が2つあります。1つ目はブルームの存在です。防水スプレーは、革表面に水分を弾くシリコンの膜を作ります。シリコン膜で包み込むことにより水分を弾きます。
後からブルームを拭き取ることは、防水スプレーの膜も拭き取ることになり、効果は薄くなるので注意が必要です。部分的に弾き、部分によっては吸収するなど、水シミの原因ともなるので注意が必要です。
2つ目もブルームに関わります。蝋は油脂の塊で水分と馴染むことはありません。ブルームがない状態で防水スプレーを使用しましょう。
ブライドルレザーの靴が少ない理由
丈夫な革だけに歩くたび足を圧迫
ブライドルレザーの財布や鞄は多く見かけるのに、靴を見かけないと不思議になる方もいらっしゃるでしょう。ブライドルレザーの革靴が少ないのには2つ理由があります。
1つ目は皮革そのものが分厚く硬いため、靴向きの柔らかく仕上げたブライドルレザーが一般市場にないということです。また、その革を製法できる職人が限りなく少ないと言うのも理由です。靴は歩くため甲や足先の屈折分に必ずシワができます。
肉厚で硬い革の場合、このシワが通常よりも深くしっかりと残ります。歩くたびソールとシワで挟まれた足は、革が馴染む前に悲鳴を上げて履けなくなります。
2つ目は靴を加工する段階でブライドルレザーの特徴でもあるブルームが無くなります。靴を加工する製法上、最大の特徴でもあるブルームを残すことは難しく、製品として成立しなくなるため靴にはブライドルレザーが使われない理由となっています。
初心者でも気負いせずに革の渋さを感じられるブライドルレザー
ブライドルレザーの魅力は天然皮革を使った製品の中でも比較的安価に手に入れることができる点です。同じデザインで作った革財布でも、ブライドルレザーときめ細かさの美しいベビーカーフでは価格に0がひとつ多いなど差が大きくでます。
肉厚で丈夫な革だけにデリケートな扱いは必要なく、初めて天然皮革を楽しむのに向いています。ブライドルレザーは他の革に比べてもケアの必要はそれほど多くなく、手軽に長く愛用することができるので、時間の経過と共に表情の変化するエイジングを楽しみやすい革とも言えます。
愛着をもってずっと使い続ける内に、次はコードバンにしてみたい、ヌメ革にもチャレンジしてみたいなど、革の奥深さに触れるのではないでしょうか。